孤立と廃屋の背後にある課題 - ごみ屋敷問題と高齢者支援の現実
ゴミ屋敷の問題
ある閑静な住宅街で、一人暮らしの高齢女性がごみ屋敷で孤独死した。女性は認知症を患い、近隣住民の懸念をよそに、家の中はゴミや生活用品で溢れかえっていた。周囲の住民は、女性の孤立を憂い、行政に相談を重ねたが、有効な対策は打てなかった。
この悲しい事件は、ごみ屋敷問題の深刻さを改めて浮き彫りにした。ごみ屋敷は、高齢化や孤立が進む現代社会の象徴とも言える。
本稿では、この事件を題材に、ごみ屋敷問題の背景と課題、そして今後の対策について考えていきたい。
■背景
女性は、80歳代前半で一人暮らしをしていた。夫はすでに亡くなっており、子供はいなかった。女性は、認知症を患い、一人で外出することも難しくなっていたという。
女性の孤立は、近隣住民にも知られていた。住民らは、女性の様子を心配し、声をかけようとしたが、女性は会話を拒否した。また、家の中は次第にゴミが溢れ始め、住民らは悪臭や害虫被害に悩まされていた。
住民らは、行政に相談を重ねたが、有効な対策は打てなかった。行政は、女性の健康状態や生活状況を調査したが、女性は協力を拒否した。また、女性の親族に連絡を取ろうとしたが、親族も女性の様子を知らないと主張した。
■ごみ屋敷の実態
女性が亡くなった後、家の中は空き家となった。家の中には、床や壁はゴミや生活用品で埋め尽くされ、悪臭が充満していた。また、ゴミの中には、女性の遺品や、腐敗した食べ物、生ゴミなどが混在していた。
近隣住民住民らは、せめて玄関まわりのゴミを片付けようとしたが、膨大な量に圧倒され、途方に暮れた。現在もゴミ屋敷は放置されたままです。
■空き家との関連
空き家とは、居住者がいない状態が1年以上続いている家屋を指す。ごみ屋敷は、空き家の一種である「管理不全空き家」に該当する。
特定空き家対策法では、管理不全空き家を「不衛生又は著しく防災上危険となるおそれがある空き家」と定義している。この法律に基づき、自治体は、管理不全空き家を適切に管理するよう、所有者や占有者に対して指導や勧告を行うことができる。
しかし、財産が絡む問題なだけに、その先の特定空き家として認定される事例はかなり限定的です。
■高齢者の孤立とセルフネグレクト
高齢者の孤立は、認知症の影響が大きく考えられる。認知症になると、社会とのつながりが失われ、孤立しやすくなる。また、認知症の症状の一つに、セルフネグレクトがある。セルフネグレクトとは、自分の身の回りの世話を怠ることであり、ごみ屋敷を作り出す原因の一つと考えられる。
■地域の対応
住民らは、女性の孤立を憂い、行政に相談を重ねた。しかし、行政の対応は限られており、有効な対策は打てなかった。
住民らは、女性の孤立を防ぐため、地域のコミュニティを活性化させることが重要だと考えている。また、認知症や孤立した高齢者へのサポート体制を整えることも求められている。
■空き家対策の現状
空き家対策は、近年、国や自治体の重要な課題となっている。しかし、空き家対策の対象となる空き家の数は、年々増加しており、対策の遅れは深刻化している。
ある自治体では、空き家対策条例を制定し、空き家の適切な管理を促している。しかし、この条例に基づく指導や勧告の対象となる空き家は、外観の目視が基本となります。冒頭の空き家では「外壁が崩れるなどの危険性はなく、空き家として問題ない」と判断。担当者は「家の中に入ってまでの調査は困難」とする。
■他自治体の事例
東京都足立区では、2013年に『足立区生活環境の保全に関する条例』に基づき、近隣住民の生活環境に多大な影響を及ぼすような状態にある、いわゆる『ごみ屋敷』改善のための対策に取組んでいます。
この条例の施行以降、ごみ屋敷の解消が進んでいる。322件の受付のうち、275件が解決されております
■全国的な課題
環境省の調査によると、2018年で、全国の空き家数は約849万戸に上り、過去最高を更新した。また、空き家のうち、「腐朽・破損あり」のものは約101万戸となっている。
空き家対策の遅れは、地域の景観や安全に悪影響を及ぼすだけでなく、ごみ屋敷問題の増加にもつながっている。
■今後の対策
ごみ屋敷問題は、高齢化や孤立が進む現代社会の深刻な課題である。今後の対策として、以下の点が重要と考えられる。
・孤立やセルフネグレクトに対する法整備
孤立やセルフネグレクトは、本人の意思に反して行われるものであり、強制的な介入は難しい。しかし、本人の権利を尊重しながら、適切な支援を行うための法整備が求められる。
・国の積極的な支援
空き家対策は、自治体単独で取り組むには限界がある。国は、空き家対策の全国的な推進を図るため、財政支援や情報提供などの積極的な支援を行う必要がある。
・地域のコミュニティの活性化
地域のコミュニティが活性化することで、高齢者の孤立を防ぐことにつながる。地域の住民が連携して、高齢者の見守りや支援を行うことが重要である。
■まとめ
冒頭の事件は、ごみ屋敷問題の深刻さを改めて浮き彫りにした。ごみ屋敷問題は、地域社会全体で取り組むべき課題である。今後、国や自治体、地域の住民が連携して、効果的な対策を講じていくことが求められる。
ごみ屋敷問題は、誰もが当事者になり得る問題である。一人ひとりが、高齢者の孤立やセルフネグレクトに目を向け、地域のコミュニティを活性化させることで、ごみ屋敷問題の防止に貢献することが大切である。
空き家やゴミ屋敷についてご不明な点等ございましたら、当事務所までご相談下さい。