相続と認知症
認知症とは?
認知症は病名ではなく、認識する力や記憶力、判断する力に障害が起きている状態を示す総称です。
認知症にはいくつかの種類がありますが、代表的なものが「アルツハイマー型認知症」で、
全体の6割を占めると言われています。
認知症の現状と将来
日本の認知症の現状ですが、65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は
2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。
そして、その数が2025年には730万人へ増加し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると
推計されています。
また、高齢になるにつれ、認知症の割合は増加すると予想されております。
85歳以上では、55%以上の方が認知症になるともいわれております。
認知症と相続対策
認知症になった方は民法上「判断能力がない」として扱われてしまう可能性があり、
契約行為等、全て無効になる可能性があります。
その為、認知症になりますと、下記のような事が出来なくなり、生前の相続対策も出来なくなります。
・不動産の売買等
・遺言書の作成
・預金口座からの引き出し等(口座の凍結)
・生命保険の加入
法定後見制度とは?
認知症発症により、認識する力や記憶力、判断する力がなくなり上記のような法律行為ができない場合は、どうすればよいでしょうか?
それが、成年後見制度という制度を活用すれば、裁判所によって選出された成年後見人(弁護士や司法書士等)が、その人に代わって、資産の管理や契約行為を行い認知症になった方を支援する制度です。
成年後見制度を使うためには、家庭裁判所へ申立てが必要になります。
その後、家庭裁判所の調査官による調査、審理、成年後見人等の選任・審判、
そして審判が確定すると法定後見の開始となります。
制度の利用開始までには、3~4カ月かかります。
成年後見制度の目的
しかし、成年後見制度は認知症の方を保護する事が目的の為、
積極的な資産運用などは行えません。
そのため、不動産の売買等につきましても、
認知症の方の生活のためにする事が明白でなければ出来ません。
一般的に、不動産の修繕や管理が大変な為等の理由では売却できません。
また、生前の相続対策とは相続人の為に行う事なので、
紛争回避の為の遺産分割案の作成や節税対策等、することができません。
任意後見制度とは?
後見制度には、上記の「法定後見制度」のほかに、「任意後見制度」があります。
認識する力や記憶力、判断する力がなくなり法律行為ができなくなる前に
財産の管理を第三者に任せる契約をしておくのが任意後見制度です。
すなわち、本人の判断能力があるうちに、将来の自己の生活やご本人の財産管理、
介護サービスの締結といった療養看護に関する事務の全部または一部を信頼できる方に依頼し、
引き受けてもらうための契約を結びます。
この契約を任意後見契約といい、
委任する内容は公正証書によって定められるものです。
法定後見制度との違い
任意後見制度は、本人の意思で後見人選び、
その後見人に財産の処分や療養看護等を託すことができます。
また、相続対策をする事もできます。
任意後見制度を利用するには、本人と後見人候補との間で
「任意後見契約」を締結し、後日認知症の症状が見られた際に、
事前に契約を締結したその後見人が資産管理・運用・処分を
することになります。
なお、任意後見制度は本人の意思能力があるうちに限られます。
認知症と診断されてからでは、法定後見制度しか使えません。
その為、早い段階から任意後見制度を利用する為の準備を進める必要があります。